斗鬼正一書評  女の子たちの帝国の逆襲 
 『「かわいい」の帝国』(古賀令子著)

 共同通信社配信 2009年7月
 掲載紙: 山陰中央新報、日本海新聞、神奈川新聞

 渋谷系、原宿系、ゴスロリ、姫ロリ、ブスかわいい、キモかわいい…。著者がガイドする、女の子たちの築いた「かわいいの帝国」は、オトナにはカオスの帝国だ。

 でも今や「かわいいの帝国」主義は世界に侵出、クールジャパンブームを巻き起こし、足元の日本でも「CanCam」卒業のはずの押切もえちゃん世代が、「かわいいの帝国」の先兵となってオトナ帝国に「AneCan」植民地を樹立、オバサン世代さえも「かわいい服しか着たくない!」とマルキュー(渋谷109)に出没するようになったという。

 思えばこれまでオトナたちは、天下国家から美の尺度まで、社会を動かす仕組みを作り上げ、女の子たちを、オトナ帝国の臣民という周縁的立場に押し込んで「ゴシュジンサマ」などと呼ばせて悦に入っていた。

 ところが気づいてみると、女の子たちは帝都渋谷原宿に結集し、誰にでも何にでも無差別に、女の子目線で「かわいい!」「かわいくない!」と独自の宣旨を下し始めた。

 既成の秩序も価値観もひっくり返されたオトナたちは、女の子の帝国の逆襲とはつゆ知らず、単なる語彙(ごい)力貧困なミーハーと嘲(あざけ)るばかり、というわけなのだ。

 でもそんなオトナ帝国は、グローバル化やら世界不況やらで価値観喪失、五里霧中。革新力も消えうせて、もはや滅亡寸前。

 そんな文化を革新し、社会を再活性化させるのは、いつの世でも既成秩序や権威など逸脱した周縁的な人々だ。

 そう考えると、「かわいいの帝国」主義がオトナ帝国を侵略し、自ら権威になってしまうことも、逆にオトナ帝国が、女の子たちの「かわいいの帝国」に文化産業、文化大使などとお墨付きを与え、取り込んでしまうことも、実は著者の言うように危ういことなのだ。

 やっぱりカオスはそのまんまが「かわいい!」、「国立かわいいの殿堂」なんて発想は「かわいくない!」のだ。 (斗鬼正一・江戸川大教授)

                            (青土社・1995円)