2000年公開講座 春C講座 「地球社会の共生を求めて−異文化との出会いと衝突−」

第4回 6月3日 

「ニュージーランドという箱庭−多民族都市の風景を読む−」

ニュージーランドは移民の国である。無人島にやってきたマオリ人、数百年遅れた英国人、さらにヨーロッパ人、フィジー人、そして近年東洋人がやってきた。それゆえ当初は異文化間の様々な摩擦を生じるが、徐々に融合してニュージーランド人としてのアイデンティティが高まり、民族問題の深刻でない多民族国家として知られている。

 ニュージーランドはまた、自然の美しい国としても知られている。確かに山、海、田園そして都市も実に美しい。ところがこれは、実のところ移民達によって改変されて作り上げられた「人工的自然」の風景なのである。

 日本人の桜や富士山の例からもわかるように、共通した故郷の風景の記憶は、民族としてのアイデンティティを作り出す。それゆえ、移民はしばしば、地名をうつすにとどまらず、動植物相まで改変して、新天地に故郷の風景を再現しようとするのである。

 さらに風景を統制することは、アイデンティティを統制することも可能にする。日本でも、明治政府は、日本人としての一体的アイデンティティを高めるために、小学唱歌「ふるさと」を歌わせ、新首都東京の桜であるソメイヨシノを全国の都市、とりわけ大名の領国支配の象徴であった城跡に植えさせた。

 そこで本講座では、多民族国家ニュージーランドにおいて、次々やってきた諸民族が、異文化によって作り上げられた風景とどのように出会ったのかを検討し、アイデンティティと、文化、自然との関わりを考察していくこととする。