文化人類“楽”者の東京探検

   斗鬼正一 

 なぜローカル線なら何でもない駅弁を、山手線で食べるとみっともないのだろう? なぜ電車の座席は両端から埋まるのだろう? なぜ映画館の新聞広告は山手線右回りの順なのだろう? なぜ有名企業本社が大手町だと当然なのに、北千佳だと変なのだろう? なぜ歓楽街は“池”袋のように、水に縁が深いのだろう? なぜ都市伝説は、橋のそばや周縁部に多いのだろう? ごみ問題というけれどそもそも、なぜごみは汚いのだろう?

 こんな不思議は、当たり前過ぎ、身近過ぎて、考えてみようともしない。でもこんな「身の回りの小さな不思議」の種明かしを楽しめたら、通勤電車も、街も、判で押したような毎日の生活も、知的エンターテイメントの場に変わるだろう。日常生活をそんな「小さな大発見」に満ちたものにして楽しませてくれるのが、文化人類学なのだ。

 文化人類学は現場の学問だから、「世界ウルルン滞在記」、「田舎に泊まろう」ノリで、世界中、日本中の旅と街歩きを楽しみ、生活の場に飛び込む。そうして集めた身の回りの不思議をユニーク発想の独自な理論で切っていくから、とにかく面白い。「小さな当たり前」に挑戦し、社会、文化という仕掛け、そして人間という不思議の正体を「そういうことだったのだ!」と種明かししてくれるから、とにかく楽しい。

 だから文化人類“楽”は、読書嫌いに“楽問”という人生最高のエンターテイメントの魅力を伝えるのに最適だし、混迷の現代社会で求められる問題発見力、解決力、独創的発想力といったクリエイティブな力をも与えてくれる。

 身近な街を、日常生活を、人とは違った目線で眺め、目からウロコの知的エンターテイメントに変える方法を伝える「文化人類“楽”生活マニュアル」、それが私の書きたい東京探検ガイドなのだ。

         『出版ニュース』、20059月上旬号、通巻2049号、出版ニュース社